鱧の“ええとこ”とことんまで
調理場の隅に、暖簾のようにぶら下がっているのは、
1メートルはゆうに超える瀬戸内の鱧。
「捌きやすいし身も強いから、大きいほうがええ。これでも可愛いもんやで」
と笑う三笠さん。
時には、3キロもの大物が揚がることも珍しくないとか。
この巨体を捌くことから、『三笠屋』の朝は始まる。
吊るしたまま小刀のような裂き包丁で身を開いてまな板へ。
出刃で背骨とヒレを取り、細身の包丁で身を剥がし、あっというまに白身の山ができ上がる。
旨味が詰まった背骨の骨ぎしをこそげ、皮と身の間に包丁を入れ、
身を鋤き取る包丁技は料理人も顔負け。熟練の“焼きとうし”の技もさることながら、
鱧の旨味を余さず切り出す細やかな仕事が、料亭の御用達の美味たる所以だ。
あの大きな鱧20尾ほどでも、すり身になるとバケツ2杯分と意外に少ない。
それでも蒲鉾2枚に約1尾分というから、改めて老舗の意気に頭が下がる。