人の手と時が醸した家具の艶
昭和23年の創業当時、チョーカーにジーンズという出立ちでお客を迎えた初代店主は、界隈随一と呼ばれたハイカラ紳士。あの震災をも乗り越えた、神戸でも現役最古参の純喫茶には、今もその洒脱な感覚が息づいている。
船のキャビンを模した店内で艶光りする家具は、客船の内装を専門にした地元の「船舶装備」に特注。開店当初、他店の倍の価格で供したという、5種の豆をブレンドした珈琲も調度に劣らぬ贅沢な味わいだ。「僕ら珈琲一本で育ったし、味を落としたら意味あらへん」とは2代目の堺井太郎さん。
今や現役は数少ない「アーン」と呼ばれる器具を使い、お客の回転に合わせて抽出の頃合いを計る。まちと共に重ねた時間と変わらぬ仕事ぶりが、憩いの一杯を格別の味にする。