穏やかな空間に並ぶ光る刃
聚楽館があったボーリング場の隣に、細長く尖った形の建物が佇む。創業百年近くになる刃物屋の老舗だ。店内には所狭しと磨かれた刃物の数々。「手打ちの本物は高いが値打ちがある」と3代目店主の塚崎茂千代さんは言う。
この店の歴史は、初代店主の廣田誠一さんが刃物の名産地三木から新開地まで、刃物を担いで売りに来たのが始まり。2代目潔さんは神戸で一、二を競うほど目立てが上手く、職人からの信頼も厚かった。
「あの頃は早朝から晩までお客さんひっきりなしで、大忙しでした」と2代目奥さんのよね子さん。娘の雅子さんは「毎日、祖母の家で晩ご飯。商売の家はいややなぁと思ったもの」と笑う。当時、聚楽館の近くで公務員として勤めていた茂千代さんと結婚し、今も一緒に店を切り盛りする。
時を経ても変わらず研ぎ澄まされた刃物が並ぶ店内。
「店の前に市電が走り、人の往来も凄かった」
と当時の賑わいを振り返る3人の穏やかな表情がある。
(「アレッ!新開地 vol.26 新開地八景」より)