『新開地のまち』が日経新聞に掲載されました!!
以下が掲載内容です。
―――――――――――――――――――――――
(日経新聞 朝刊 2016.11.05付)
「おっちゃんの街」と呼ばれる新開地(神戸市兵庫区)がにぎわい復活に挑んでいる。このほど落語の常設寄席「神戸繁昌亭(仮称)」の開設が決まった。街の成り立ちを支えた娯楽を生かし、三宮や元町とは違うレトロな味わいで若者や女性、家族客を呼び込む。訪れた人を買い物や食事に引き付ける新たな魅力づくりも始まった。
「笑いの殿堂ができれば新開地の新たなイメージができる」。地元まちづくり協議会の高四代会長(69)は悲願だった繁昌亭誘致の実現を喜ぶ。
上方落語協会は10月下旬、天満天神繁昌亭(大阪市北区)に続く繁昌亭を神戸に設ける計画への賛同を決めた。建物の建設費約2億円は兵庫県と神戸市が助成するが、運営は地元のNPOが主体となり赤字が出れば補填する。それでも粘り強く誘致を働きかけてきたのは伝統的な娯楽を新規客開拓に生かすためだ。
地元NPOが主催する落語の地域寄席「新開地寄席」は若者や女性も訪れ、約100席が毎回ほぼ満席になる。複合文化施設「神戸アートビレッジセンター」では多様な演劇の公演やワークショップが楽しめる。
女性限定で開催している「新開地映画祭」は10月下旬に2日間で延べ1000人を集めた。厳選した2本立て作品を楽しめる映画館も残る。これらの魅力を伝えるため始めた女性向け街歩きツアーは募集直後に定員が埋まるほどの人気だ。
課題は買い物や食事など日常のにぎわいをどうやって取り戻すかだ。近隣地域では再開発が進んでマンションが増えたが、街を訪れる家族層や新参の女性は少ない。待望の繁昌亭開業は早くて2年後だ。娯楽を楽しむ客を誘うだけでなく、いかに長く引き付けるか。住民による新しい試みが始まった。
2016年夏から毎月第2土曜日に始めたのが「土曜マルシェ」だ。兵庫県産の生鮮品や手作り雑貨をそろえ、若年世代に魅力をアピールする。
マルシェでランチを提供するのは、祖父の代から続く割烹(かっぽう)「大力」で働く谷口真由美さん(37)。ちゃんこ料理、てっちりが主体だが「新しいお客さんに来てもらいたい」と、父母の協力を得て4年前からランチを始めた。お酒に合うプリンなどのスイーツも好評だ。老舗和菓子店「福進堂」も10月半ばに明るい雰囲気の和カフェを開いた。
兵庫県産の生鮮品や手作り雑貨を若者にPRする新開地の「土曜マルシェ」(神戸市)
ベビーカーを押して須磨区から訪れた大石裕香さん(32)は「楽しい店がありそう。また来たい」と話す。レトロな魅力は外国人も引き付ける。三上真由美さん(39)が祖母の残した築50年超の旅館を改装したゲストハウス「ユメノマド」は宿泊客の7割が40カ国からの外国人だ。地元の飲食店を紹介すると「味や値段、もてなしにみんな満足して帰ってくる」。
時代の波にもまれて残った資源を新しい世代が生かす動きを街全体に広げられるか。繁昌亭の開業前からファンを増やし、にぎわいをつくり出す。そんな気概がみなぎれば街の前途は明るい。
(神戸支社 下前俊輔)
▼新開地 神戸市兵庫区南部の地名で、旧湊川を埋め立てた場所に「新しく開いた地」が由来。大衆芸能の街として発展し「東の浅草、西の新開地」と称された。1936年にはチャールズ・チャップリンが訪れた。
57年の神戸市役所の移転、70年代の造船業の衰退に加え、鉄道網整備で通過駅になったことが響き客足が激減した。95年の阪神大震災では7割の建物が全半壊。まちづくり協議会の高会長はレコード盤になぞらえて三宮(A面)に対し「B面の神戸」と呼び、独自の活性化に取り組んでいる。
大型ショッピングセンターの攻勢に苦戦する全国の商店街にとって新規客の開拓は共通した課題だ。レトロな雰囲気を生かして若者らの集客に成果を上げている商店街は少なくない。
那覇市の「栄町市場商店街」は戦後復興で誕生した姿をほぼそのまま残す。一時は大型店に押されて客足が遠のいたが、屋台祭りなどのイベントを開催。狭い敷地に多様な店舗がひしめく雰囲気が見直され、地元客や観光客でにぎわう。
名古屋市の「円頓寺商店街」も老舗店に個性的なギャラリーなどが溶け込み注目スポットとなっている。建築家や商店街の理事長で構成する市民団体が空き店舗のオーナーと出店希望者を仲介する試みが実を結んだ。